傷病手当金とは|病気やケガで働けない期間の生活を支える、健康保険の給付
健康保険と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、「医療費が3割で済む」ことだと思います。でも健康保険には、それとは別にもう1つ大きな機能があります。働けなくなった期間の収入を、一定割合で補ってくれる——それが傷病手当金です。
「病気で数ヶ月休んだら生活できない」と思っている人は多いのですが、会社員として健康保険に入っているなら、すでにその備えの保険料を払っています。知らずに使わないのが、いちばんもったいない制度のひとつです。
傷病手当金とは何か
傷病手当金は、業務外の病気やケガで働けなくなり、給与が受けられない期間について、健康保険から支給される給付です。会社員や公務員など、健康保険の被保険者本人が対象になります。
また、国民健康保険では傷病手当金が任意給付とされており、一般には実施されていない点にも注意が必要です。つまり自営業・フリーランスの人には、原則としてこの備えがありません。会社員が持っているセーフティネットの中でも、特に見落とされがちな差です。
支給される4つの条件
次の4つをすべて満たすことが必要とされています。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること。自宅療養も含まれ、入院している必要はありません
- 仕事に就くことができない状態であること。この判断は、療養担当者(医師)の意見などをもとに、これまでの仕事の内容に照らして行われます
- 連続する3日間を含み4日以上、仕事に就けなかったこと(いわゆる待期3日間)
- 休業した期間について給与の支払いがないこと。給与が支払われていても、その額が傷病手当金より少ない場合は差額が支給されます
制度の全体像は厚生労働省「傷病手当金について」で確認できます。
「待期3日間」の正確な数え方
ここは細かいですが、誤解が多いところなので丁寧に説明します。
- 支給の対象になるのは4日目からです。最初の3日間(待期期間)には支給されません
- この3日間は連続している必要があります。1日休んで出社、また休んで——という飛び飛びの休みでは待期が完成しません
- 待期期間には土日祝などの公休日も含まれます。有給休暇を使った日も、待期の3日間としてカウントされます
| ケース | 待期の成立 | 支給開始 |
|---|---|---|
| 月・火・水と連続で休業 | 成立 | 木曜から |
| 金・土・日と休業(土日は公休) | 成立 | 月曜から |
| 月休み・火出勤・水休み・木休み | 不成立(月火水が連続でない) | 水木金と続けば金曜から |
いくらもらえるのか
1日あたりの支給額は、次の計算式とされています。
ざっくり言えば「これまでの月給のおよそ3分の2」です。月給30万円なら、月あたり20万円前後が目安になります。
ここで出てくる標準報酬月額とは、社会保険料の計算に使われる等級のこと。給与明細の見方で解説したとおり、毎月の保険料を決めているのと同じ数字です。払っている保険料の根拠が、そのまま給付額の根拠にもなっているわけです。
いつまでもらえるのか(通算1年6か月)
同一の病気やケガについて、支給を開始した日から通算して1年6か月が上限です。
ここは2022年1月に重要な改正がありました。それ以前は「支給開始日から1年6か月経過するまで」という期間のカウントだったため、途中で復職して支給が止まった期間も1年6か月の中で消化されてしまっていました。改正後は、実際に支給された日数を通算する方式になっています。
申請の手順
申請先は加入している健康保険(協会けんぽ、または勤務先の健康保険組合)です。多くの場合、会社の担当部署を経由して提出します。
- 申請書を入手する:加入先のサイトからダウンロードできます
- 本人が記入する欄を埋める:氏名、口座、休んだ期間など
- 療養担当者(医師)に意見欄を書いてもらう:就労不能であったことの証明です。文書料がかかる場合があります
- 事業主(会社)に証明欄を書いてもらう:出勤状況と給与の支払い状況を証明してもらいます
- 提出する:支給までには通常数週間〜1か月程度かかるとされています
なお、傷病手当金には時効があり、労務不能であった日ごとに、その翌日から2年とされています。過去の分をさかのぼって請求できる場合もあるので、心当たりがあれば加入先に相談してください。
見落としやすい注意点
- 失業給付とは同時に受け取れません:傷病手当金は「働けない人」への給付、失業給付は「働ける状態で求職中の人」への給付です。前提が正反対なので併給できません。退職後に働けない状態が続く場合は、失業給付の受給期間を延長する手続きが用意されています
- 障害年金との調整があります:同一の傷病で障害厚生年金を受けられる場合、調整が行われます(年金の仕組み)
- 傷病手当金は非課税です:所得税はかかりません。ただし休業中も社会保険料の負担は原則として続きます
- 退職後も受け取れる場合があります:被保険者期間が継続して1年以上あることなどの条件を満たす必要があります。退職日に出勤すると要件を満たさなくなる場合があるため、退職を検討する段階で必ず健康保険に確認してください
よくある質問
Q. いくらもらえますか?
A. 1日あたり、支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2が目安です。おおまかにはこれまでの月給の約3分の2になります。
Q. いつまで受け取れますか?
A. 同一の傷病について支給開始日から通算して1年6か月が上限です。2022年1月の改正により、復職して支給が止まった期間は算入されなくなりました。
Q. 退職しても受け取れますか?
A. 被保険者期間が継続して1年以上あることなど、一定の条件を満たせば退職後も引き続き受け取れる場合があります。退職日に出勤すると要件を満たさなくなることがあるため、事前確認が重要です。
Q. うつ病でも対象になりますか?
A. 業務外の事由による精神疾患で働けない状態であれば対象となり得ます。医師が就労不能と判断することが前提です。
Q. 有給休暇を使った日はどうなりますか?
A. 給与が支払われている日は原則として支給されません(給与が傷病手当金より少ない場合は差額が支給されます)。ただし待期3日間のカウントには含まれます。
Q. 自営業でも受け取れますか?
A. 国民健康保険では傷病手当金は任意給付とされており、一般には実施されていません。自営業やフリーランスの方は、民間の所得補償保険などで別途備える必要があります。
まとめ
傷病手当金は、会社員が毎月払っている健康保険料に、すでに含まれている所得補償です。医療費が3割で済むことばかりが知られていますが、「働けない期間の生活を、月給の約3分の2で、通算1年6か月支える」という機能のほうが、いざというときの効き目は大きいかもしれません。
覚えておくべきは3つだけです。①連続3日休むと4日目から対象になる。②おおよそ月給の3分の2。③申請しないと1円も出ない。
この制度の存在を知っているかどうかで、「休む」という選択ができるかどうかが変わります。限界まで我慢する前に、思い出してほしい制度です。
※本記事は制度の一般的な解説です。支給の可否や金額は個別の状況によって異なります。実際の判断は加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)にご確認ください。